付録A
伝達関数の部分分数展開
この章のねらい
- 厳密にプロパーな有理関数を部分分数に分解できる
- 留数(被覆法)と重解の処理を実行できる
- 逆ラプラス変換・逆z変換と部分分数展開を結びつけられる
A.1 基本の部分分数展開
本編で「逆変換するには部分分数展開しろ」ってサラッと流れたけど、やる夫はそこが一番あやしいお。ちゃんと復習させてほしいお。
いい心がけだ。付録としてまとめておく。まず対象は、分子の次数が分母の次数より真に小さい有理関数だ。これを厳密にプロパー(strictly proper)という。たとえば
分母が単根(重複なし)に因数分解できているとき、こう分解できる。
と をどう求めるかが問題だお。両辺を通分して係数を比べる…でいいんだお?
それでもいいが、もっと速い手がある。ヘビサイドの被覆法だ。 を求めたければ、 に を掛けて、 を代入する。「 の分母を手で隠して、その根を全体に代入する」イメージだ。
同様に は を掛けて を代入する。
おお、通分しなくていいから速いお! 、 だから
だお。検算でもとに戻せば合ってるはずだお。
そのとおり。この を留数(residue)と呼ぶ。各極に紐づく重み、と思っておけ。被覆法は「その極の分母因子を覆い隠して、残りに極の値を代入する」という機械的操作で留数が出る、便利な定理だ。
A.2 重解の扱い
分母に同じ因子が2回出てきたらどうするんだお? みたいなやつだお。
重解(多重極)の場合は、その因子について次数ぶんの項を全部立てる。たとえば
なら、 と の両方を用意する。
一番次数の高い は被覆法で行けそうだお。 を掛けて を代入する。
そう。。問題は だ。同じことをやると で割る形になって失敗する。 は微分してから代入する。
一般に の重解なら、 番目の留数(下から数えて)は を 回微分して を掛け、 を代入する。結果はこうだ。
微分が一段増えるだけで、考え方は同じだお。重解の数だけ項を立てて、上から被覆法、足りないぶんは微分、と。
A.3 プロパーでない場合
ところで「分子の次数が分母より小さい」が前提だったお。分子のほうが大きい、あるいは同じならどうするんだお?
その場合は先に多項式の割り算をして、厳密にプロパーな部分を取り出す。たとえば
分子の次数(2)が分母(1)以上だ。 を で割ると、商が 、余りが になる。
割り算して、商はそのまま、余りの部分だけ部分分数展開するってことかお。
そうだ。商の多項式部分(ここでは )は、逆ラプラス変換するとデルタ関数とその微分になる。残りの が普通の指数関数を生む。まず割って厳密プロパーにする、これが鉄則だ。
A.4 逆ラプラス変換との対応
なぜ部分分数展開をするのか。それは、基本形なら逆変換の答えを暗記しているからだ。連続時間の最重要パターンはこれ。
は単位ステップ( で1)だ。さっきの式 (A.2) の例 なら、 と を当てはめて
と一発で逆変換できる。
なるほどだお! 複雑な分数を、答えを知ってる単純な分数の足し算にバラす。だから部分分数展開が必要なんだお。納得したお。
重解 なら逆変換は だ。極が複素共役なら の中身が振動して、減衰正弦波になる。基本形の辞書さえ持っていれば、あとは部分分数展開で持ち込むだけだ。
A.5 離散版(逆z変換)
連続はわかったお。離散(z 変換)のときはどう変わるんだお?
考え方は同じだが、基本形が変わる。離散の最重要パターンはこれだ。
連続の に対応するのが、離散では (等比数列)だ。極 が単位円の内側()なら は減衰し、外側なら発散する。第15章の安定性の話と直結している。
連続は 、離散は …。そういえば式の見た目がちょっと違うお。連続は なのに、離散は って の形だお。
そこが離散の流儀だ。z 変換は (遅延演算子)の多項式で扱うのが自然なので、部分分数展開も の式として の形を基本形にする。たとえば
を
と分解する。被覆法も使えるが、 を一つの変数とみなして扱うか、あるいは一度 にしてから の多項式として展開し、最後に を掛け戻す、という流儀もよく使われる。連続のクセで の形に分解してしまうと、逆変換の基本形と噛み合わずに混乱するので注意しろ。
連続と離散で「基本形が違う」ことだけ忘れなければいいんだお。、。辞書の引き方は同じ。
その整理でいい。部分分数展開は、伝達関数を「答えを知っている部品」に分けるための共通の道具だ。連続でも離散でも、まずプロパーにして、被覆法で留数を出し、重解は微分で補う。この手順は変わらない。
- 部分分数展開は厳密にプロパー(分子の次数 < 分母の次数)な有理関数に適用。そうでなければ先に多項式の割り算をする
- 単根の留数は被覆法(その分母因子を覆って極の値を代入)で速く求まる
- 重解 は次数ぶんの項を全部立て、低次の留数は微分してから代入する
- 逆変換は基本形の辞書で引く: 連続 、離散
- 離散は の式として分解するのが流儀。連続のクセで にしないこと